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美容室の開業資金はいくらか|公庫の記入例1,030万円の内訳と、開業後に残る額

美容室を開くために、何にいくら必要かを見積もりたい方に向けた記事です。日本政策金融公庫の創業計画書の記入例を使い、設備資金と運転資金の内訳、席数・人員の前提、開業後に返済を引いて残る額を確かめます。記入例の総額を相場として使わず、自分の物件や営業計画で置き換える項目を整理できます。

ここでは、お金の使い道と必要額を中心に扱います。融資の制度選びや申込準備は資金調達の記事で詳しく確認できます。届出の提出先や書類は保健所・税務署への届出の記事にまとめています。

見積もりを取り始める方は資金の内訳へ。準備の段取りは開業までの順序、開業後の支払いが気になる方は返済後の残額から読めます。

SHORT ANSWER

公庫の記入例では、必要な資金は1,030万円です。うち58.3%が店舗の内外装工事で、自己資金は330万円(32.0%)。この計画で創業当初に残るのは月38万円ですが、事業の見通し欄には借入の返済元金が入っていません。月10万円を引くと28万円で、ここから税金と生活費を出します。

これは統計ではなく、公庫が示すモデルケースです。席数と物件の条件で総額は動きます。以下では内訳と、この計画が業界の実態からどれだけ離れているかを見ます。

1. 記入例が示す総額は1,030万円

日本政策金融公庫は、創業融資を申し込むときに提出する創業計画書の書式と、業種別の記入例を公開しています。美容業の記入例(PDF)では、必要な資金の合計が1,030万円と書かれています。実物を開きながら読むと、どの欄の話かが分かります。

同じ欄の内訳は設備資金870万円と運転資金160万円です。比率にすると84.5%と15.5%で、日本政策金融公庫が示すこのモデルでは、資金の大半が開店までに出ていきます。

この数字の性質

これは公庫が計画書の書き方を示すために作ったモデルケースであって、統計値ではありません。セット椅子3台・シャンプー台2台の店を、事業主と専従者1人の2人で回す前提です。

開業資金を業種別に集計した公的統計は、確認した範囲では公表されていません。公庫の「新規開業実態調査」(2025年度)が示すのは全業種の平均975万円・中央値600万円までです。「美容室の開業資金の相場は◯◯万円」と統計の形で書ける数字は、公的には出ていません。

セット面3席が壁に沿って一列に並ぶ美容室の内観。鏡3枚とオークのカウンター、黒い施術椅子3脚

セット面3席。記入例の「セット椅子3台」にあたる部分

シャンプー台2台が並ぶ美容室のシャンプースペース。間にタオル棚

シャンプー2台。記入例の「シャンプー台2台」にあたる部分

規模をつかむためのイメージです。この2つに受付・待合とバックヤードを足すと、当社の目安で17坪前後になります。記入例に面積の記載はないため、席数と設備からの逆算です。物件の形と天井高でも必要な広さは変わります。

以下は、公庫が公開している「創業計画書 記入例(美容業)」です。必要な資金・調達方法・月々の見通しをどう書くかの参考であり、この金額で開業できることや審査に通ることを保証する資料ではありません。項目を自分の見積書と売上の根拠に置き換えます。

2. この計画は、誰の計画か

金額だけを抜き出すと「1,030万円あれば開業できる」と読めてしまいます。ただ、この記入例には計画を書いた人物の設定があり、それが数字の前提になっています。自分の条件と比べられるよう、先に確認しておきます。

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美容業の経験 12年
現勤務先での立場 指名数1位
直近の勤務 ヘアサロン8年(スタイリスト)
退職時の月給 25万円
退職金 80万円
保有資格 美容師免許・管理美容師

20〜40代の女性、というのが販売ターゲットの設定です。現勤務先の固定客が約200人つまり開店初日から見込み客が200人いる状態で、売上95万円という計画が立てられています。

競合環境も書かれています。近隣に美容室3店舗・理容室1店舗。うち顧客層が重なるのは2店舗。近隣に同業が4店あるなかで、固定客を持って参入する構図です。

メニューの構成も具体的です。売上の内訳がこう置かれています。

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メニュー 構成比
カット(シャンプー・ブロー込み) 40%
カラー(カット込み)8,000円〜/パーマ(同)10,000円〜 58%
ヘアケア商品の販売 2%

客単価6,000円は、カット単体(3,500円)ではなくカラーやパーマを含めた平均です。カット40%に対してカラー・パーマが58%を占める構成で成り立っています。カット中心の店で同じ客単価を置くと、計画の時点で無理が入ります。営業条件は月26日、火曜日定休、9:00〜18:00です。

見落としやすいのは、創業前からの借入です

記入例には、事業の借入とは別に、経営者個人の既存借入も書かれています。自分の計画でも返済予定表をそろえ、新しい事業の返済だけで生活が成り立つと判断しないようにします。

12年の経験、指名1位、固定客200人、退職金80万円。この前提が自分と違うなら、同じ数字は使えません。売上の見込みも、必要な運転資金も変わります。以下で内訳を見ていきますが、金額を写すのではなく、自分の条件に置き換える前提で読んでください。

3. 何にいくらかかるのか

記入例の金額を、大きい順に並べます。総額1,030万円のうち、どこが重いかが一目でわかります。

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必要な資金 1,030万円の内訳 設備 870万円 / 運転 160万円 内外装工事 58.3% 什器・備品 100万円 保証金 100万円 台・椅子 70万円 運転資金 160万円
日本政策金融公庫 創業計画書 記入例(美容業)2025年4月1日版より作成。台と椅子はシャンプー台2台(40万円)とセット椅子3台(30万円)の合計です。

最も大きいのは店舗の内外装工事で600万円、総額の58.3%です。ここが動くと総額が動きます。逆に言えば、工事費を抑えられるかどうかが開業資金の大部分を決めます。

次が什器・備品類100万円と保証金100万円。施術に直接使うシャンプー台とセット椅子は、合わせて70万円で、総額の1割にも届きません。設備投資といえば機器を思い浮かべますが、金額の重心は箱のほうにあります。

内外装工事600万円と保証金100万円を足すと700万円で、総額の68.0%が箱そのものにかかる費用です。しかもこの2つは性質が違います。保証金は退去のときに条件しだいで戻りますが、内装は戻りません。造作を次の借り手に譲れれば一部を回収できることはありますが、それも相手が見つかった場合の話です。

内装にいくらかけるかと、客単価をいくらに置けるかは別に確かめます。工事費だけでは売上の根拠になりません。提供するメニュー、施術時間、予定地の価格、見込める客数を並べ、その売上で家賃や返済を賄えるかを計算します。

だからこそ、居抜きを選ぶか、スケルトンから作るか、どこまで造作するかの判断が、開業資金の大部分を決めます。工事費は開店前に出ていき、返済は開店後に始まります。工事費を抑えて借入額も減らせるなら、同じ返済条件での月々の元金返済を軽くできます。

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区分 項目 金額
設備資金
870万円
店舗内外装工事(設備工事を含む) 600万円
什器・備品類 100万円
保証金 100万円
シャンプー台 2台 40万円
セット椅子 3台 30万円
運転資金
160万円
広告費等の諸経費支払 100万円
消耗品等の仕入 30万円
家賃等 30万円
合計 1,030万円

日本政策金融公庫 創業計画書 記入例(美容業)2025年4月1日版の「必要な資金と調達方法」欄より作成。

運転資金160万円の中身は、広告費等の諸経費100万円、消耗品等の仕入30万円、家賃等30万円です。開店してから売上が立つまでの数か月を持ちこたえるための現金で、ここを削ると、開店直後にお金が回らなくなります。

この3.1か月は、運転資金をここで取り出した毎月の支払いで割った単純比較です。実際に営業を続けられる期間ではありません。材料の仕入れ、税金・社会保険、生活費、売上が入る時期も含め、開業後の月ごとの入出金表で資金が足りるかを確かめます。

内装は、かけた額と仕上がりが比例しない

見積りを比べる前に、同じ図面と工事範囲を渡します。設備の仕様、見積りに含まれない工事、追加費用の条件、引渡し予定日がそろわないまま総額だけを比べると、必要な工事が抜けている見積りを選ぶおそれがあります。

判断の軸を分けると考えやすくなります。

内装のどこにお金をかけるか

  • 毎日効いてくるもの: スタッフの動線、席とシャンプーの配置、収納の量と位置、給排水と電気容量、換気
  • 入口の印象に効くもの: ファサード、待合から見える一面、照明の当て方
  • 効きにくいもの: 客席から見えない場所の造作、来店してから気づかれない素材のグレード

一括発注と分離発注を比べるなら、工事費に加えて工程の調整や追加工事の窓口も確認します。どちらが安いか、早く終わるかは見積りと工事条件によります。設備や仕上げを変更する場合も、必要な衛生設備と動線を保った案を施工者に出してもらい、総額で比較してください。

ただし、この判断を開業前の1人で持つのは難しいところです。内装会社の見積もりが妥当かどうかは、比べる相手がいないと分かりません。相見積もりを取るにも、何を同じ条件として揃えるかを決める必要があります。

当社にご相談いただけること

施工パートナーをご紹介できます。自社でもサロンを運営している事業者なので、動線や設備の判断が実務に即しており、費用を抑えながら仕上げる進め方を相談できます。物件を決める前の段階から、席数と収支の前提を置いたうえで工事の範囲を組み立てます。

内装と物件について相談する

当社は、ご相談の結果としてフランチャイズ本部や事業者をご紹介する場合に、紹介料・広告料・成果報酬といった対価を先方から受け取る可能性があります。判断材料は本サイトと同じ計算を優先し、条件が合わない場合は見送りをお勧めします。

4. 自己資金はいくら要るのか

記入例では、1,030万円を次のように調達しています。

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調達方法 金額 返済
自己資金 330万円 記入例では退職金80万円の記載あり
日本政策金融公庫 国民生活事業からの借入 500万円 元金7万円×72回
他の金融機関等からの借入 200万円 信用金庫・元金3万円×67回
合計 1,030万円

自己資金は330万円で、必要な資金の32.0%にあたります。残りの68.0%、700万円を借りる形です。記入例には、前職の退職金80万円が自己資金の一部として記載されています。

借入は2本に分かれています。公庫が500万円で元金7万円×72回、他の金融機関が200万円で元金3万円×67回。合わせて月10万円を、6年前後にわたって返し続けることになります。

返済は、利益から出ていきます

用意できる自己資金と借入予定額を、支払時期まで含めて並べます。必要な額が調達できても、毎月の返済を賄えるかは別の確認です。第6章の月次収支で、開業後の支払いまで確かめます。

自己資金の割合が高いほど審査で有利になる、という単純な関係ではありません。ただ、必要な資金そのものを小さくできれば、借入額が減り、開業後の毎月の返済が軽くなります。工事費が総額の58.3%を占める以上、ここをどう組むかが返済負担を決めます。

必要額を整理したら、資金調達・創業融資で、使いみちに合う制度と申込みに必要な書類を確認してください。

5. 開業までの順序

資金の全体像が見えたところで、何をどの順に進めるかを整理します。順序を間違えると、物件を押さえたのに融資が下りない、内装が仕上がったのに検査が通らない、という詰まり方をします。

  1. 01

    免許と資格を確認する

    美容を業として行うには美容師免許が要ります(美容師法第6条)。開設者本人が美容師である必要はありません。美容師である従業者が常時2人以上になる美容所には、管理美容師を置きます(第12条の3)。顔そりは理容師法が理容と定める行為ですが(第1条の2)、化粧に附随した軽い程度のものは美容師が行って差し支えないとされています(昭和23年衛発第382号)。シェービングを独立したメニューにするなら原則として理容の領域で、理容師免許と理容所の届出・使用前の確認が必要です。医師でなければできない施術も業態によって混ざるので、メニュー案の段階で確認します。

  2. 02

    事業計画と収支計画を作る

    客単価と席数、営業日数から売上を置き、費用を引いて残る額を出します。融資を受けるなら、この計画書が審査の対象になります。公庫の記入例は、まさにこの段階の見本です。

  3. 03

    物件を決める

    構造設備の基準を満たせるか、給排水と電気容量が施術に足りるかを、契約前に確認します。保証金は記入例で100万円で、同じ記入例の家賃が月10万円ですから、10か月ぶんにあたります。契約してから基準を満たせないと分かると、そこまでの費用が戻りません。

  4. 04

    資金を調達する

    公庫の創業融資に加えて、美容業は生活衛生関係営業にあたるため専用の融資ルートがあります。物件が決まっていないと計画の具体性が出ないため、物件のめどと並行して進めます。

  5. 05

    内装工事と設備の発注

    総額の58.3%を占める工程です。工期と、次の検査の日程を逆算して発注します。

  6. 06

    保健所へ届け出て、使用前の確認を受ける

    開設の届出を出し、施設が構造設備の基準に適合しているかの確認を受けます。この確認を経てから営業を始めます。開業実務の最後の関門で、ここに要する期間を工程に織り込みます。

  7. 07

    税務署へ開業届を出す

    保健所への開設届とは別に、税務署への開業届があります。名前が似ていますが、届出先も目的も違います。

保健所への届出と管理美容師の要件、構造設備の基準は、それだけで判断が要る量があります。本ページでは工程上の位置づけにとどめ、要件そのものは別に扱います。 具体的な記載項目と検査までの順番は、届出・保健所のガイドで確認できます。

計画書には、数字以外に何を書くのか

創業計画書は9つの欄でできています。埋めるのは金額だけではありません。事業の中身を言葉で書く欄がいくつかあり、記入例にはそこに何を書けばよいのかも具体的に示されています。審査側が見ているのは、数字がその中身から出てきているかどうかです。

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創業計画書の欄(全9欄) 紫=言葉で書く欄 / 赤=数字を書く欄 1 創業の動機 2 経営者の略歴等 2章 3 取扱商品・サービス 5章 4 従業員 5 取引先・取引関係等 6 関連企業 7 お借入の状況 2章 8 必要な資金と調達方法 1・3・4章 9 事業の見通し(月平均) 6章 右端は、この記事のどの章で扱うか
日本政策金融公庫 創業計画書 記入例(美容業)2025年4月1日版の欄構成をもとに当社が作図。用紙そのものではありません。実物は 公庫のPDF でご確認ください。

事業の収支を組み立てるのは8番と9番です。4番は人数、5番は取引のシェアと回収条件、7番はすでにある借入の残高で、いずれも自分の状況を書く欄にあたります。順番にも意味があって、動機と略歴を書いたあとに商品とターゲットが来て、最後に収支が並びます。数字は、その前に書いた言葉の結論として置かれる構造になっています。

セールスポイント(自社の強み)欄

  • 髪にやさしい天然ハーブを主原料としたヘアケア剤(シャンプー等)を使用する
  • ハーブティのサービスと10分間のヘッドマッサージで、顧客に「癒し」を提供する

抽象的な「丁寧な接客」ではなく、使う薬剤と提供するサービスが具体的に書かれています。これが客単価6,000円という数字の裏づけになります。単価を高く置くなら、その理由を言葉で示せる必要があります。ただし、この記入例にあるヘッドマッサージのような施術をメニューに置くときは、内容に注意が要ります。あん摩・マッサージ・指圧を業として行うには、あん摩マツサージ指圧師の免許が必要です(あはき法第1条)。美容の一環として行える範囲かどうかは、着手前に保健所へ確認してください。

競合・市場など自社を取り巻く状況の欄

店舗予定地はショッピングセンターへの通り道に面した商業ビルの1階で、周辺の人通りも一定数ある。現勤務先の固定客に加え、新規顧客の獲得も期待できる。

近隣に美容室3店舗・理容室1店舗。うち顧客層が重なるのは2店舗。

立地の条件と、近隣に何店の同業があるかを具体的に書いています。競合がいないと書くのではなく、いるうえでどう戦うのかを示す形です。

販売ターゲット・販売戦略の欄

  • 20〜40代の女性。現勤務先の固定客が約200人
  • 創業当初は、駅前でのチラシ配りやポスティングで新規顧客の獲得を図る
  • 固定客からの口コミに加え、SNSも利用して認知度の向上を図る

固定客200人という数字が、ここで初めて売上の根拠として使われます。計画書の数字と言葉は、別々に書くものではありません。売上を組み立てた根拠が言葉の欄にあり、その言葉を裏づける数字が金額欄にある。この対応が取れているかを、審査側は見ています。

6. その計画で、毎月いくら残るのか

資金を集めれば開業はできますが、借りた以上は返します。同じ記入例には「事業の見通し(月平均)」の欄があり、開業後にいくら入っていくら出るのかが、月平均で書かれています。

創業当初の売上は95万円です。内訳は施術93万円(記入例の根拠欄は「6,000円×3台×2回転×26日=93万円」。実際に掛けると936,000円で、記入例が万円単位に丸めています)+ヘアケア商品販売2万円。客単価6,000円で、3台の席が1日2回転、月26日営業という置き方をしています。

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創業当初の月次(記入例) 売上 95万円 費用 計 57万円 差引 38万円 返済後 28万円
日本政策金融公庫 創業計画書 記入例(美容業)2025年4月1日版の「事業の見通し」欄より作成。返済後の額は、同欄に含まれない借入元金(月10万円)を当社が差し引いて算出したものです。

費用の合計は57万円。売上から引くと38万円が残ります。数字だけ見れば悪くありません。

ただし、ここに借入の返済元金は入っていません。事業の見通し欄にあるのは支払利息2万円だけです。元金の月10万円を引くと、手元に残るのは28万円になります。

そしてこの28万円から、所得税・住民税・国民健康保険料・国民年金を払い、事業主自身の生活費を出します。

費用の人件費が月10万円と書かれているのを見て、美容師の給料が10万円なのかと思われるかもしれません。そうではありません。この計画は事業主と配偶者の2人で回す想定で、外から人を雇っていません。10万円は、店を手伝う配偶者に払うぶんです。記入例の根拠欄にも「人件費 専従者1人(妻)10万円」と書かれています(専従者は、生計をともにする家族でその事業に専念している人のことです)。

事業主自身の取り分は、この人件費欄には入っていません。公庫も利益欄に「個人営業の場合、事業主分の人件費はここに含まれます」と注記しています。差引38万円から返済10万円を引いた28万円が、税金と社会保険料と事業主の生活費のもとになる、という並びです。ちなみに記入例の事業主は、前職の月給が25万円という設定です。

軌道に乗った後との比較

  • 売上は95万円から142万円へ。約1.5倍
  • 人件費は10万円から25万円へ。記入例の根拠欄では、アシスタントを1人雇って15万円増える想定です
  • 差引は53万円。返済後で43万円
  • 売上は約1.5倍、返済後の額は28万円から43万円と約1.5倍になる

この記入例では、売上とともに人件費や諸経費も増えています。売上の増加分がすべて手元に残るわけではないため、増員後の費用と返済を含めて比べます。この構造は開業後の経営そのものの話なので、費用の内訳と損益分岐点は別ページで詳しく扱います。

7. 計画と、業界の実態の差

ここまでは公庫が示す計画の話でした。では、営業している店の決算はどうなっているのか。同じ公庫が、融資先の決算を集計した業種別の経営指標を公表しています。開業直後の店に限った統計ではなく、融資を受けて事業を続けている法人企業の断面です。

美容業555社の損益分岐点比率は103.0%です。100を超えるということは、損益分岐点となる売上高のほうが実際の売上高より高い、つまり売上が費用をまかなえていない状態を意味します。

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損益分岐点 = 100% 記入例のモデル(創業当初) 52.5% 美容業555社の平均(実績) 103.0%
記入例のモデルは、当社が同記入例の数値から算出しました(変動費を売上原価のみとし、人件費・家賃・支払利息・その他を固定費として計算)。実績値は日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」業種別経営指標。

この2つを単純に比べてはいけません

記入例のモデルは、事業主の生活費を人件費に含めていません。専従者1人ぶんの10万円だけです。一方、経営指標の母集団は公庫が融資した法人企業(従業者50人未満・決算期間1年)で、役員報酬や従業員給与が人件費に入ります。

つまり同じ「損益分岐点比率」でも、費用の中身が違います。数字の差がそのまま「計画が甘い」ことを示すわけではありません。

公庫の記入例は、仮定を置いた計画です。一方、経営指標は融資先法人の決算を集計した値で、対象も目的も違います。両者の差だけで計画の良し悪しは判断できません。自分の単価・客数・費用に置き換え、売上が見込みを下回る月も計算します。

返済まで賄うための売上は、ここで置いた費用と原価率による計算値です。事業主の生活費、税金・社会保険、既存の借入返済は別に加えます。「返済後に残る額」と「自由に使える額」を分けて資金計画を作ってください。

8. ひとりで始める場合

ひとりで始めるかどうかで、必要な資金も、開業後に必要な売上も変わります。記入例の数字のどこが動いて、どこが動かないのかを分けて見ます。

公庫の記入例は、事業主と専従者1人の2人体制です。ひとりで始めるなら、席数を減らせるぶん内外装工事と什器の金額は下がります。総額1,030万円のうち58.3%が工事費である以上、規模を小さくする効果は大きく出ます。

席数を売上に直結させず、担当者数、メニューごとの所要時間、並行して対応できる工程を確認します。席が3つあっても、毎時間3人を施術できるとは限りません。予約を受けられる枠を営業日ごとに置き、その枠に収まる客数で売上を計算します。

ひとりで始めるときに動く数字

  • 下がるもの: 内外装工事、什器・備品、セット椅子とシャンプー台の台数、他人に払う人件費
  • 下がりにくいもの: 保健所の基準を満たすための最低限の設備。保証金と運転資金は物件と固定費しだいで動く
  • 上限が下がるもの: 同時に施術できる人数、したがって1日あたりの客数

金額で見ると、記入例から他人に払う人件費10万円が消える形になります。売上に連動しない費用は月32万円まで下がり、返済10万円を含めても、家賃・その他・返済を記入例のまま据え置き、売上原価の比率(見通し欄の15万円÷95万円)を変えないなら、月49.9万円の売上で釣り合う計算です。2人体制の61.8万円より11.9万円低い水準になります。ただしこれは事業主自身の生活費を含まない額です。

ひとり経営で必要な客数と、そこから残る額の計算は、開業後の収支の話になります。客単価と固定費から必要客数を逆算する方法は、経営の面で扱っています。自店の条件で試すなら、収支シミュレーターに客単価と固定費を入れると、返済と生活費を引いたあとの手元まで出ます。ここまで見た必要資金のほうは開業資金シミュレーターで、記入例との差を確かめられます。

サロン経営の収益構造を見る

9. 美容所の使用確認件数と施設数の動き

最後に、開業を考えるときに押さえておくべき市場の動きを1つ。

美容所を新しく開くときは、開設の届出に加えて、構造設備の使用前の確認を受けます。衛生行政報告例の「使用確認件数」は年度中に確認を受けた件数です。美容所の年度末施設数とは、数える対象と時点が異なります。ネイル・エステなどを含むサロン全体の開業数でもありません。

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年度 使用確認件数(件) 施設数の前年度差(施設) 年度末の美容所数(施設)
令和4年度 14,934 +5,666 269,889
令和5年度 14,304 △4.2% +4,181 274,070
令和6年度 12,433 △13.1% +3,682 277,752

使用確認件数は厚生労働省 衛生行政報告例 令和6年度 第10表、年度末施設数は同 令和6年度「結果の概要」表4より作成。令和4年度の使用確認件数は日本政策金融公庫「業種別の創業ポイント集 Vol.2 理容業・美容業の創業ポイント」(2024年7月)図表-1を参照。施設数の前年度差は当社の計算です。使用確認件数と施設数の増減の差を廃業件数として扱うことはできません。

使用確認件数は2年続けて減り、前年度からの減少率は4.2%から13.1%になりました。

一方、年度末の美容所数は令和2年度の257,890施設から令和6年度の277,752施設まで増えています。使用確認件数が減ったことだけで、競争が緩んだとは判断できません。

施設数の前年度差は、令和4年度に5,666施設、令和5年度に4,181施設、令和6年度に3,682施設でした。増加幅は縮んでいますが、この2つの統計だけで廃業の数や原因は分かりません。

全国の件数は、自分の店の需要や採算を直接示す数字ではありません。出店地域の競合・見込客数と、自店の売上・費用・返済計画を照合して判断してください。

読み終えたら、物件の初期費用、内装・設備の見積もり、営業開始後の仕入れ・人件費・諸経費を手元にそろえてください。記入例の設備資金と運転資金の欄に当てはめ、見積書で確かめた金額と、まだ仮置きしている金額を分けます。席数や人員も自分の計画に置き換えると、次に見積もりを取る項目がわかります。

そのうえで、使える自己資金、借入を予定する額、毎月の返済、売上と経費の見通しを並べます。返済後に生活費を確保できるかまで照合し、合わない場合は規模・物件・開業時期のどこを見直すかを決めてください。未確認の金額は残したままにせず、確認先と次に調べることをメモしておくと、計画を進めやすくなります。

よくある質問

美容室を1人で開業するにはいくら必要ですか?
日本政策金融公庫が公表している創業計画書の記入例(美容業)では、必要な資金を1,030万円としています。設備資金870万円と運転資金160万円の合計です。ただしこれはセット椅子3台・シャンプー台2台の店を、専従者1人と2人で回すモデルであって、統計値ではありません。席数と物件の条件で大きく動きます。開業資金の業種別統計は確認した範囲では公表されておらず、公庫の2025年度新規開業実態調査では全業種の平均975万円・中央値600万円が示されています。
自己資金はいくら用意すればよいですか?
同じ記入例では、1,030万円のうち自己資金が330万円(32.0%)で、残り700万円を公庫と他の金融機関から借りる形になっています。記入例には退職金80万円の記載もあります。この割合は記入例の前提で、融資の一律の基準ではありません。審査結果は事業計画や返済の見通しなどを含めて判断されます。必要額と借入額を抑えられるかも見積りで確かめてください。
開業資金のうち、何が一番大きいですか?
店舗の内外装工事です。記入例では600万円で、必要な資金1,030万円の58.3%を占めます。設備資金870万円のなかでみると69.0%です。工事費を抑えられるかどうかで総額が大きく変わるため、居抜き物件を選ぶ判断はここに効きます。
公庫の記入例どおりに開業すると、毎月いくら残りますか?
記入例の事業の見通し欄では、創業当初が売上95万円に対して費用57万円で、差引38万円です。ただしこの欄に借入の返済元金は含まれていません。記入例の借入は公庫が元金7万円×72回、他の金融機関が元金3万円×67回なので、月10万円を利益から支払います。残るのは28万円で、ここから税金と社会保険料、そして事業主自身の生活費を出すことになります。
美容室の開業は増えていますか、減っていますか?
美容所の使用確認件数は令和4年度の14,934件から令和6年度の12,433件へ、2年続けて減っています。一方、年度末の美容所数は前年度より3,682施設増えて277,752施設です。使用確認件数はサロン全体の開業者数ではなく、施設数の増減との差から廃業数も求められません。候補地の需要・競合と自店の資金計画を別に確認してください。

本ページで使用したデータ出典と注記

  • 日本政策金融公庫 創業計画書 記入例(美容業)2025年4月1日版。必要な資金1,030万円(設備870万円・運転160万円)、調達方法、事業の見通し(月平均)。2026-08-09に公表PDFから直接取得しました。これは計画書の書き方を示すモデルケースであり、統計値ではありません
  • 日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」業種別経営指標(2025年度調査・2026年8月公表)。対象は公庫国民生活事業の融資先法人企業のうち、従業者50人未満・決算期間1年の企業です。業界全般の平均ではありません。 業種別の原表・調査対象と指標の定義 美容業555社の損益分岐点比率103.0%を参照しています。
  • 厚生労働省 衛生行政報告例 令和6年度 第10表(令和6年度・2025-10-21公表)。美容所数277,752施設、使用確認件数12,433件、前年度比3,682施設
  • 日本政策金融公庫「業種別の創業ポイント集 Vol.2 理容業・美容業の創業ポイント」(2024年7月)図表-1。令和4年度の値14,934件を参照
  • 日本政策金融公庫「2025年度 新規開業実態調査」。開業費用の全業種平均975万円・中央値600万円。業種別の内訳は公表されていません
  • 厚生労働省 衛生行政報告例 令和6年度「結果の概要」表4 生活衛生関係施設数の年次推移。美容所の施設数(各年度末現在)令和2年度257,890施設〜令和6年度277,752施設

返済後の収支、記入例モデルの損益分岐点比率、運転資金が何か月ぶんにあたるか、ひとり体制で釣り合う売上、施設数の前年度差は、いずれも当社が公表値から算出したものです。損益分岐点の計算では変動費を売上原価のみとし、人件費・家賃・支払利息・その他を固定費として扱っています。借入の返済元金は公庫の事業の見通し欄に含まれないため、記載の返済条件(元金7万円×72回、元金3万円×67回)から月10万円として差し引いています。収益を保証するものではありません。実際の判断にあたっては、ご自身の計画の数値に置き換えてご確認ください。

当社の立場について。当社は、ご相談の結果としてフランチャイズ本部や事業者をご紹介する場合に、紹介料・広告料・成果報酬といった対価を先方から受け取る可能性があります。判断材料は本サイトと同じ計算を優先し、条件が合わない場合は見送りをお勧めします。