MANAGEMENT
美容室経営はなぜ厳しいのか|公的指標で見る損益分岐点・利益率・人件費率
売上はあるのに手元にお金が残らない。毎月、何人の来店が必要なのかわからない。そんな美容室の経営者に向けて、店舗全体の売上と費用、必要な客数を整理します。公庫の経営指標は比較の材料、モデル計算は計算方法の例として使い、自店の条件に置き換えて確かめます。
同じ月の売上と経費明細がそろっている方は、自店の損益分岐点の計算から始められます。ひとりで営業している方は、生活費まで含めた必要客数の例をご覧ください。 すでに掲載料や予約システムの契約を見直すと決めている場合は、固定費・契約条件の記事で具体的な確認項目を整理できます。
SHORT ANSWER
公庫の融資先で、従業者50人未満・決算期間1年の美容業法人555社を調べた結果、各企業の損益分岐点比率を単純平均した値は103.0%でした。「黒字かつ自己資本プラス企業」の区分では96.0%です。
この調査対象の平均だけで、業界全体や自店の継続可能性を判断することはできません。以下では売上と費用の内訳、1人経営で必要な客数、継続・撤退を検討するときに照合する自店の数字を順に見ます。
1. 公庫が集計した美容業の平均は、損益分岐点を超えていない
日本政策金融公庫は業種別に経営指標を公表しています。美容業は555社分が集計されており、そこに損益分岐点比率という項目があります。
損益分岐点比率は、損益分岐点となる売上高が実際の売上高の何%にあたるかを示す数字です。100%を下回っていれば、実際の売上が損益分岐点を上回っている状態です。100%を超えていれば、その逆になります。
美容業の値は103.0%でした。
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この数字を読むときの前提
母集団は日本政策金融公庫国民生活事業の融資先法人企業のうち、従業者50人未満で決算期間が1年の企業です。公庫自身が、業界全般を代表するものではない旨を明記しています。
したがって「日本の美容室の平均」ではなく、「公庫から融資を受けている小規模な美容業法人の平均」として読んでください。個人事業主として営む1人サロンの多くは、この集計に入っていません。
この平均は、自店の費用を点検するための比較材料です。平均が100%を超えていても、すべての店が赤字という意味ではありません。自店の損益は、自店の売上と費用で確かめます。
2. 売上100万円は、どこへ消えるのか
同じ調査の売上高総利益率、人件費率、諸経費率を並べると、どの費用を点検すべきかが見えてきます。売上を100万円と置き、比率の大きさを読み比べます。
売上高総利益率は84.4%です。100%との差である15.6%は売上原価に相当する比率で、カラー剤やシャンプーなどの材料費だけを表す値ではありません。売上総利益からも、人件費や家賃などの費用を支払います。
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人件費率は41.9%、諸経費率は36.2%です。この2つの合計78.1%と売上高総利益率との差は6.3ポイントになります。ただし、各指標の平均を並べた差であり、利益として残る額を示したものではありません。
この6.3ポイントは営業利益ではありません
公庫の諸経費には減価償却費が含まれず、営業経費にはこれを含めます。また、損益分岐点比率の計算には支払利息割引料も含まれます。平均比率の差である6.3ポイントを、営業利益や手元の現金として使うことはできません。自店では決算書の費用を同じ区分にそろえて比べてください。
売上総利益の大きさだけで、店にお金が残るかは判断できません。増員や設備追加を検討するなら、給与・家賃・設備の支払いがいつ増えるかと、それを賄う売上をいつ見込めるかを並べて確認します。
3. 自分の店が、どちら側にいるか
自店では、まず売上と費用を同じ月でそろえます。以下は費用を固定費と変動費に分ける管理用の計算で、公庫の集計式・費用区分とは異なります。調査平均との直接比較よりも、単価や費用を変えたときに自店の必要売上がどう動くかを確かめるために使います。
計算の手順
- 1か月の費用を、売上に比例して増える費用(材料費など)と、売上に関係なく出ていく費用(家賃、社員給与、リース料、保険料など)に分けます
- 売上から比例する費用を引きます。これが限界利益です
- 限界利益を売上で割り、限界利益率を出します
- 売上に関係なく出ていく費用を、限界利益率で割ります。これが損益分岐点売上高です
- 損益分岐点売上高を実際の売上で割り、100を掛けます
出てきた値が100を下回っていれば、いまの売上は損益分岐点を超えています。100を超えていれば、超えた分だけ売上が足りていません。
たとえば売上100万円、損益分岐点売上高110万円なら、損益分岐点比率は110%で、不足は10万円です。費用の条件が同じなら、いまの売上から10%増が必要です。必要売上に対する充足率の約91%(100÷110)とは、分母が違います。売上を増やす案と固定費を下げる案を、それぞれ金額で比べてください。
スタッフを雇っている場合、社員の給与は売上に関係なく出ていく費用です。歩合や業務委託の比率が高いほど、売上に比例する側へ移ります。同じ売上でも雇用の形によって損益分岐点が変わるのは、このためです。
収支シミュレーターでは、自店の客単価と費用を入れ、返済元金と生活費も分けた月次の試算ができます。税金・社会保険料や入出金の時期は含まれないため、結果をそのまま手取りや預金残高とは扱いません。計算はブラウザ内で完結し、入力内容は当社に送信されません。
4. 1人で経営すれば、残るのか
1人で営む店では、スタッフ給与とは別に事業主の生活費を確保する必要があります。事業の費用だけを賄う売上と、生活費まで確保する売上を分けて計算します。
事業主個人の生活費は、事業の人件費とは分けて扱います。以下のモデルは、家賃などの事業費用に加え、生活費として月300,000円を確保する仮定です。事業の損益分岐点と、生活費を含む必要売上は別の計算として読んでください。
公庫が公開している創業計画書の記入例では、美容業のモデルは客単価6,000円、原価率15%、家賃100,000円、営業日数26日です。この前提に、当社が水道光熱・通信・保険・リースなどの固定費150,000円と、事業主が生活費として取る300,000円を置いて生活費も賄うための必要来店数を計算すると、次の形になります。
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読み取り
- 1人あたりの限界利益は5,100円です(客単価6,000円から材料費900円を引いた額)
- 事業主の取り分を考えない場合、固定費250,000円を賄うのに月50人
- 生活費を月300,000円確保するなら、事業の固定費との合計550,000円を賄うのに月108人
- 月108人は、26日営業で1日あたり4.2人です
ここでいう「人」は延べの来店で数えています。同じ人が月に2回来れば2と数えるので、実際に必要な客の人数は来店の頻度によって変わります。その関係は9章で扱います。
1日4.2人という数字だけを見れば、無理のない水準に見えるかもしれません。ただしこれは、税金と社会保険料を払う前、そして開業時の借入を返す前の金額です。内装や設備を借入で用意していれば、その返済がここに乗ります。
客単価を上げれば必要な来店数は下がります。客単価8,000円で計算し直すと、限界利益は6,800円になり、同じ事業の固定費と生活費を賄うのに必要なのは月81人まで下がります。ただし原価率を一定とした計算です。値上げ後の客数・施術時間・材料費も変えて、自店の条件で比べてください。
5. 公庫調査のエステティック業と比べる
同じ公庫の調査には、エステティック業の指標もあります(105社)。美容業と並べると、同じサロンでも構造が違うことがわかります。
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日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」業種別経営指標より作成。母集団の条件は美容業と同じです。
損益分岐点比率は113.8%で、美容業より10.8ポイント高い水準です。人件費は38.0%と美容業より3.9ポイント低いのに、損益分岐点は遠い。
諸経費率はエステティック業が44.5%、美容業が36.2%です。ただし、この原表から家賃や機器リース料それぞれの内訳、差の原因までは分かりません。自店では家賃・リース・機器の保守・広告費などを明細で分け、売上に対して何が重いかを確かめます。
6. 使用確認件数と、年度末の施設数を分けて読む
ここまでは費用構造の話でした。もう一つ、業種全体の動きとして押さえておくべき数字があります。
厚生労働省の衛生行政報告例には、美容所の新規開設に伴う使用確認件数が載っています。これは年度中の使用確認の件数で、開業した人の人数や、ネイル・エステを含むサロン全体の開業数ではありません。
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減少幅に注目してください。令和5年度は前年度比△4.2%、令和6年度は△13.1%です。減り方が3倍以上に広がっています。
同じ統計の美容所施設数は、年度末時点で277,752施設、前年度末から3,682施設増えています。使用確認件数が減ったことだけでは、競争が緩んだとは判断できません。施設数の推移も分けて確認します。
この2つの数字は別のことを言っています
使用確認件数は年度中の件数、施設数は年度末時点の数です。集計の意味が違うため、この2つだけから廃業数や今後の増減を判断することはできません。出店計画では、全国の推移に加えて、予定地の店・メニュー・価格を自分で確認します。
なお美容師の免許を持って働く人は588,291人います。施設数277,752で割ると1施設あたり約2.1人です。従業美容師の数だけで見れば、1施設あたり2人強という規模になります。
7. 2025年の美容室倒産を、集計条件とともに読む
倒産件数を読むときは、対象の事業者、負債額、集計期間を確認します。前章の使用確認件数や施設数とは対象と期間が異なるため、そのまま割って倒産率を出すことはできません。
帝国データバンクの集計では、2025年の美容室の倒産は235件で、前年の215件を上回りました。2年連続で過去最多を更新しています。負債1000万円以上で法的整理に至ったものを数えた件数です。
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帝国データバンク「『美容室』の倒産動向(2025年)」より作成。負債1000万円以上・法的整理による倒産が対象です。東京商工リサーチは「美容業」として別の範囲で集計しており、件数を並べて比べることはできません。
倒産した店の約半数が設立10年未満
この2025年の集計では、対象となった倒産のうち設立10年未満が49.0%を占め、これは年間100件を超える水準が常態化した2008年以降で最も高い割合です。平均業歴も13.0年で、前年の14.1年を下回りました。
集計には10年以上続けた店の倒産も含まれます。この割合だけでは、業歴ごとの美容室全体に対する倒産率はわかりません。前章で見た新規開設の減少との因果関係も、この資料からは判断できません。
資本金1000万円未満が9割超という意味
この集計で倒産した美容室の9割超が資本金1000万円未満でした。これは倒産した店の構成比で、規模ごとの美容室全体に対する倒産率ではありません。自店については、売上が計画を下回った場合に支払いを続けられるか、手元資金と毎月の支出を確認します。
意味があるのは、その小規模な店がどこで詰まるかのほうです。要因として挙げられているのは、大手チェーンや低価格店との競争、材料費・電気代・テナント料の上昇、そして人手不足です。人手不足を理由とする倒産は11件で、2013年以降で最も多くなりました。
倒産件数と、すべての閉店件数は異なります
対象は負債1000万円以上で法的整理に至ったものです。任意の廃業や負債1000万円未満の倒産など、条件に当てはまらない閉店は含みません。この235件を、美容室すべての閉店件数と読むことはできません。
ここまでで、公庫調査の対象企業では損益分岐点比率の平均が100%を超え、売上に占める人件費・諸経費の比率が大きいことを見てきました。美容所の使用確認件数の減少と、上記条件の倒産件数の増加も、それぞれの集計範囲で確認しました。次は、自分の店で何を動かせるのかに移ります。
8. 数字のどこを動かすと、いちばん効くのか
ここまでで、費用の構造と自分の位置がわかりました。次は動かす場所を決める段です。手を入れられる場所は4つあります。客単価、人件費、諸経費、そして席数と営業日数です。
同じ労力をかけるなら、効きの大きい場所から動かすほうが早い。4章の1人経営モデル(客単価6,000円・原価率15%・家賃100,000円・その他固定費150,000円・生活費300,000円)を使って、それぞれを動かしたときに必要な来店数がどう変わるかを並べます。
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4章と同じ前提での試算です。生活費の行は「取らなければ楽になる」という意味ではなく、事業の固定費とは別に確保したい生活費の大きさを示すために置いています。
このモデルでは、家賃を20,000円下げると必要な来店数は4人減り、客単価を2,000円上げると27人減ります。ただし、値上げ後も客数と原価率が同じという仮定です。実際には来店数が減る場合や施術時間が延びる場合も置き、売上・費用の両方を比べてください。
単価を変える案には、追加する薬剤や所要時間も含めます。値上げ後も同じ人数が来る場合と、来店数が下がる場合を計算すると、どの程度の変化まで支払いを賄えるかを比べられます。
人件費は、金額より「形」を先に見る
人に支払う費用は、固定額と売上に連動する額に分けて置きます。歩合や業務委託でも最低保証や別途負担する費用があれば、すべてが変動費になるとは限りません。契約の名称だけで決めず、支払条件と働き方の実態を確認して計算します。
雇用の形は採用条件そのものなので、すぐには変えられません。だからこそ、人を増やす判断のときに一度確認しておく項目になります。
諸経費36.2%は、動かせるものと動かせないものが混ざっている
家賃・リース料などは契約条件、水道光熱費や広告費などは使用量・出稿量によって、見直せる時期と方法が異なります。なお、この36.2%は公庫の定義による諸経費で、減価償却費は含まれていません(経営指標の算出式・注5)。
物件や設備の契約で継続的な支払いが決まっている場合は、月額だけでなく契約期間・更新時期・解約時の負担を確認します。自店の支出を項目別に並べ、今すぐ減らせる額と更新時に見直せる額を分けて、損益分岐点を再計算してください。 契約を点検する段階では、固定費・掲載料・システムの見直しで、料金体系と解約条件を確認してください。
席数を変える案は、売上と移転費用も比べる
席数や営業日を変える案では、受けられる客数と、実際に減らせる支払いを同時に見積ります。席を減らすだけで家賃や給与が下がるとは限りません。物件や人員の変更が必要なら、契約条件と実行できる時期まで確認します。
移転する場合は、新しい家賃だけでなく、工事・原状回復・引越し・営業を止める期間の支払いも加えます。毎月の収支が改善するかと、一時的な支払いを賄えるかを分けて計算してから判断します。
9. 売上の側は、3つに分けて見る
ここまでは費用の側を見てきました。売上の側も同じように分解できます。分けると、どこが詰まっているのかが見えます。
同じ客が何回来るか、席がどれだけ埋まっているか、席を使わない売上があるか。この3つです。
必要な客数は、リピートの頻度で何倍も変わる
さきほどのモデルでは、事業主の生活費も賄うための必要来店数が月108人でした。4章で断ったとおりこれは延べの来店で数えた数字なので、年間にすると1,296回の来店になります。
ここで効いてくるのが、その1,296回を何人で埋めるかです。同じ客が繰り返し来てくれるなら少ない人数で埋まり、毎回が新しい客なら人数が要ります。リピートの頻度が、必要な固定客の数を決めます。
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上のモデル(客単価6,000円・原価率15%・事業の固定費と生活費の合計で月550,000円)から当社が計算した値です。公庫の記入例に来店頻度の記載はありません。
年6回来る客なら216人で足りますが、年2回なら648人が要ります。3倍の差です。同じ年間来店数を得るには、再来の間隔が空くほど大きな顧客基盤が必要です。新規獲得の必要数は、現在の顧客基盤や再来の実績と合わせて確かめます。
何回来るかは業態によって違います。髪が伸びる周期に左右される美容室と、ネイルやまつげのように施術の持ちで決まるもの、脱毛のように回数が決まっているものでは、前提から別物です。自店の実績が分からないうちは、この表のどの行に近いかを仮置きして計画を立てることになります。 業態ごとの構造の違いは業態別のページで比べています。
席を増やす前に、いまの稼働率を見る
予約枠の参考として、公庫の記入例の3席・1日2回転・月26日を使います。掛けると月156枠になります。前の試算で生活費300,000円も賄うために必要だった月108人は、この枠の69.2%にあたります。稼働率で約69%が、生活費を取ったうえで収支の合う下限という意味になります。ただしこれは1来店が1枠を使う前提での試算で、施術時間の差やキャンセルは織り込んでいません。席数だけで1人営業の予約枠を決めず、スタッフ数と施術時間から実際に受けられる枠を別に確認してください。
自店では、曜日と時間帯ごとに予約枠を確認します。空きがあっても、客が希望する時間に受けられず断っている場合があります。席を増やす案は、断った予約、施術時間、担当者数から追加で受けられる人数を見積り、増える費用と合わせて比べます。
席の時間を使わない売上がある
公庫の記入例では、創業当初の売上高950,000円が、施術930,000円とヘアケア商品の販売20,000円に分かれています。施術側の式(6,000円×3台×2回転×26日)を厳密に計算すると936,000円で、記入例の93万円は万円単位に丸めた表示です。記入例は別の欄で、物販の売上シェアを2%と書いています。
物販は施術席を使わずに売上を作れる場合があります。ただし販売の説明、仕入れ、在庫管理にも時間と費用がかかります。施術との兼ね合いを確認し、販売価格から仕入れや手数料を引いた額で比べます。
ただし仕入れが要るので、在庫として現金が寝ます。売れ残った分は在庫として残り、値引きや廃棄をすれば損失になります。ここも「粗利がいくら残るか」で見る対象で、売上の額だけを追う話ではありません。
単価を上げるとき、失う客の数まで計算しておく
前章で見たとおり、客単価を2,000円上げると生活費も賄うための必要来店数は月108人から81人へ下がります。27人ぶんの余裕が生まれる計算です。
裏を返せば、いま月108人が来ている店で値上げをして来店が27人ぶん減っても、このモデルの事業費用と生活費は賄える計算です。減少率は約25%ですが、税金・社会保険料・借入返済を含めた許容幅ではありません。来店数は端数を切り上げた必要数で比べており、売上と費用が厳密に同額になる点とは異なります。同じ人の複数回来店も含むため、離れる実人数とも分けてください。
なお、既存の客に対する価格改定と、新規の客に対する価格設定は別の話です。既存客の場合は改定を伝える時期と方法が要りますが、それは数字ではなく運用の領域なので、ここでは扱いません。
10. 続けるか畳むかを、数字で決める
経営が苦しいとき、判断を先送りする理由はいくらでも見つかります。次の季節に期待する、新しいメニューを入れてみる、といった具合です。先送りが最も高くつくのは、閉じるための費用が払えなくなってから閉じることになる場合です。
美容室を閉じるには、原状回復の工事費、リース契約の残債、保健所への廃止届といった手続きと費用が発生します。手元の現金がゼロになってからでは、この費用が用意できません。だから撤退の判断は、現金が尽きる前の時点に基準を置いておく必要があります。
判断を止める前に決めておく3つ
- 損益分岐点比率が何%を何か月続けたら見直すか。調査対象の平均103.0%と「黒字かつ自己資本プラス企業」の平均96.0%は比較の材料とし、自店の収支と手元資金をもとに基準を先に決めておきます
- 手元の現金が何か月分の固定費を割ったら閉じる準備に入るか。原状回復とリース残債の見積もりを取り、その額を下回る前に動きます
- どの費用なら削れるか。家賃と社員給与は短期で動かせません。動かせるのは契約の見直しと、席数・営業日数の設計です
自店の基準を考えるために、売上・客数・客単価・経費明細を同じ月でそろえ、借入の返済予定表と預金残高も確認します。損益分岐点の計算に使う費用と、実際の現金の支払いを分けて並べると、売上が足りないのか、返済を含めた支払いが重いのかを確かめられます。
続ける場合の費用見直しと、規模や働き方を変える場合、閉じる場合を比べるには、契約条件や原状回復・リース残債の見積もりも必要です。未確認の金額は見積もりや契約書で埋め、検討する項目と次に数字を確認する日を決めてください。公庫の平均だけで自店の継続・撤退を判断せず、自店の収支と手元資金を照合して進めます。
よくある質問
- 美容室の倒産はどれくらい起きていますか。
- 帝国データバンクの集計では2025年に235件で、前年の215件を上回り2年連続で過去最多を更新しました。対象となった倒産のうち49.0%が設立10年未満で、平均業歴は13.0年です。これは倒産した店の内訳で、業歴別の倒産率を示すものではありません。集計対象は負債1000万円以上・法的整理による倒産で、任意の廃業や負債1000万円未満の倒産などは含みません。
- 美容室を1人で経営すると年収はいくらくらいですか?
- この記事の法人の調査平均から、1人経営の年収は求められません。当社のモデルでは、客単価6,000円・原価率15%・家賃100,000円・その他固定費150,000円と置くと、生活費として月300,000円を確保するために月108回(1営業日あたり4.2回)の来店が必要です。生活費は事業の人件費とは分けて扱い、税金・社会保険料・借入返済はこの必要売上に別途加えます。
- 美容室の利益率の平均はどれくらいですか?
- 公庫の融資先法人を対象とする調査では、美容業の売上高総利益率の平均は84.4%です。売上総利益は売上から売上原価を引いた額で、材料費だけを引くとは限りません。人件費率41.9%と諸経費率36.2%との差は6.3ポイントですが、各指標は比率の平均であり、この差が営業利益率になるわけではありません。業界全体や自店の利益率とは分けて読んでください。
- 美容室が潰れる理由は何ですか?
- 原因は店によって異なり、公庫の経営指標だけでは個々の倒産原因を判定できません。公庫が調査した美容業555社の平均では、人件費は売上の41.9%、諸経費は36.2%です。これらは比較の材料とし、自店の売上・経費・手元資金を照合してください。増員や設備投資を検討するときは、費用が増える時期と、必要な客数・売上を確保できる時期を分けて計画します。
- 損益分岐点比率が100%を超えるとはどういう意味ですか?
- 損益分岐点比率は、損益分岐点となる売上高が実際の売上高の何%にあたるかを示す指標です。100%を超えるのは、損益分岐点のほうが実際の売上より高い状態、つまり今の売上では費用をまかなえていない状態を意味します。公庫が調査した美容業555社の平均は103.0%で、「黒字かつ自己資本プラス企業」の区分では96.0%です。
- 美容室の開業は増えているのですか、減っているのですか?
- 衛生行政報告例の美容所の新規開設に伴う使用確認件数は、令和4年度の14,934件から令和5年度14,304件、令和6年度12,433件へ減っています。一方、年度末の美容所施設数は前年度末から3,682施設増えています。年度中の確認件数と年度末の施設数は別の集計で、開業した人の人数やサロン全体の開業数ではありません。
- 固定費を削るのと客単価を上げるのは、どちらが損益分岐点に効きますか?
- 変更する額と、値上げ後の客数・原価率で変わります。この記事のモデルでは、家賃を20,000円下げると必要な来店数は月4回減り、単価を2,000円上げると27回減ります。ただし同じ原価率で、生活費を含む月次支払いを賄う計算です。値上げ後に客数が減る場合や施術時間が変わる場合も置き、自店の条件で比較してください。
- 損益分岐点の来店数を満たすには、何人の固定客が必要ですか?
- 同じ客が年に何回来るかで変わります。公庫の記入例に当社の費用と生活費の仮定を加えた試算では、生活費も賄うための必要来店数は延べで月108人、年間1,296回の来店です。1人が年6回(約2か月に1回)来るなら216人、年2回なら648人が必要で、3倍の差が出ます。これは必要な顧客基盤の人数を比べた計算です。新規に何人集める必要があるかは、既存客の人数や実際の再来率と合わせて判断します。
本ページで使用したデータ出典と注記
- 日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」業種別経営指標(2025年度調査・2026年8月公表)。対象は公庫国民生活事業の融資先法人企業のうち、従業者50人未満・決算期間1年の企業です。業界全般の平均ではありません。 業種別の原表・調査対象と指標の定義 美容業555社、エステティック業105社の損益分岐点比率・売上高総利益率・人件費率・諸経費率を参照しています。
- 厚生労働省 衛生行政報告例 令和6年度 第10表(令和6年度・2025-10-21公表)。美容所数277,752施設、従業美容師数588,291人、使用確認件数12,433件、前年度比+3,682施設
- 日本政策金融公庫「業種別の創業ポイント集 Vol.2 理容業・美容業の創業ポイント」(2024年7月)図表-1。令和4年度の新規開設件数14,934件
- 帝国データバンク「『美容室』の倒産動向(2025年)」(出典)。倒産235件、設立10年未満49.0%、平均業歴13.0年。負債1000万円以上・法的整理による倒産が対象で、それ以外の閉店は含みません。
- 日本政策金融公庫 創業計画書 記入例(美容業)2025年4月1日版。客単価6,000円、原価率15%、家賃100,000円、営業日数26日
- 日本政策金融公庫 創業計画書 記入例(美容業)2025年4月1日版「9 事業の見通し」。創業当初の売上高950,000円(施術930,000円・ヘアケア商品販売20,000円)、軌道に乗った後1,420,000円。物販の売上シェア2%は同記入例「3 取扱商品・サービス」欄の記載です。施術売上の式を厳密に計算すると936,000円で、記入例の93万円は万円単位に丸めた表示です
第4章の生活費も含む必要売上の試算のうち、その他固定費150,000円と事業主の取り分300,000円は当社が置いた前提であり、統計値ではありません。収益を保証するものでもありません。実際の判断にあたっては、ご自身の店の数値に置き換えてご確認ください。
当社の立場について。当社は、ご相談の結果としてフランチャイズ本部や事業者をご紹介する場合に、紹介料・広告料・成果報酬といった対価を先方から受け取る可能性があります。判断材料は本サイトと同じ計算を優先し、条件が合わない場合は見送りをお勧めします。